西本智実 祈りの歌をバチカンへ

今年3月バチカンからミサの招待状が西本智実のもとに届いた。西本智実は上智大学のキリシタン文庫を訪れ、1605年刊のサカラメンタ提要という楽譜を見学した。ヨーロッパではすでに歌われなくなった聖歌の楽譜を見ながら西本智実はある歌に思いを馳せていた。
　　西本智実のルーツの島、長崎県生月島には1558年にキリスト教が伝わった。そして16世紀に伝わった聖歌を今でも大事に歌い継いでいる。西本智実はこの聖歌をバチカンのミサで演奏をすることを考えた。
　　指揮者?西本智実は世界で活躍してきた。バチカンが西本智実を招待した背景には東日本大震災への深い同情があった。また西本自身にも東日本大震災と深いつながりがあった。西本は比佐美恵子さんからのメールを受け震災直後にブログで救援物資を呼びかけていた。
　　震災後、西本智実は東北の被災地での活動に力を入れた。北上市のコンサートでは客席の人も一緒になって歌った。参加者には被災者もいて今も仮校舎で過ごす高校生に、西本智実は応援していますと話した。
　　5月下旬。西本智実はバチカンで歌う合唱団員を全国から募集することにした。そのころバチカンから聖歌オラショが正式な聖歌だと証明されミサで歌うことが許可されたと連絡があった。呼びかけには350人の応募者が集まった。北上市でも応募者が練習を行った。
　　10月。合唱団員の全国のメンバーが集まり西本智実の指導のもと合同練習を行った。北上からきた高松さんたちは練習に来られなかったメンバーのために西本智実のアドバイスをメモした。
　　長崎県生月島に向かった西本智実は、地元の人に今も歌われているオラショについて話を聞き、実際に歌う姿を見学した。そして余程の信念がないと伝えきれないと思うと語った。
　　幻の歌オラショを歌う挑戦が続いていた。しかし西本智実は被災地からの参加者がなかなか集まらないことに悩んでいた。いわき市で比佐美恵子さん案内のもとかつて住んでいた町を巡り、西本智実は故郷を取り戻したいという祈りの重さを受け止めようとした。
　　西本智実は人の荷物を背負えるとは考えていないが、重い荷物を運ぶ手伝いができれば喜んでする、バチカンを被災者の希望にしたいと思い取り組んでいると語った。
　　東京から西本智実の合唱団に参加する新井悦子さんはオラショにある思いを込めていた。新井悦子さんは病気で声が出せなくなったあと西本智実のコンサートに参加したことをきっかけに、バチカンの合唱団員に参加を決め自分の生きる力を確かめたいと考えている。
　　参加者で最年長の諸橋澄子さんは6月に亡くなった夫のために祈りながら歌いたいと語った。岩手県北上市から参加するグループはオラショにどう祈りを込めるのか考え続けていた。高松幸子さんは何度も歌いうちに震災後に大船渡市に入ったときの光景を思い浮かべるようになった、その時の祈りを表現できればと語った。
　　バチカンに出発する前、西本智実は自分の原点である大阪玉造教会を訪ねた。海外で成功した西本智実は手のひらを返すようなバッシングをあびて人間不信になったこともあったという。そして今回のバチカン行きに抱いた特別な思いを語った。
　　総勢400人の合唱団とオーケストラがローマに到着した。ミサの舞台となるのはサンピエトロ大聖堂。そして本番2日前サンタンドレア?デッラ?バッレ教会でリハーサルを行い、オラショの残響を最大限に活かすことが決められた。
　　11月9日ミサ当日。西本智実、合唱団が入場。会場には比佐さんの姿もあった。そして西本智実は合唱団に心を一つにすることを呼びかけた。本番10分前になり枢機卿が現れないというトラブルに見舞われるが、西本智実はなんとか準備を済ませた。
　　オラショの合唱で演奏がはじまった。それぞれの祈りがひとつになり大聖堂に響いた。そして枢機卿が祭壇で世界に向けてメッセージを送った。つづいてさらにオラショが歌われた。オラショの調べが人々の胸に届いた。
　　その後、ベートーヴェン交響曲第九番が合唱されミサが終了した。参加した人々はここで歌えてよかったなどと感想を述べた。西本智実はミサを終えて、意思が伝えられた音楽になったとコメントした。